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機械論的咬合論から生理的咬合へ

 
ICCMO-Japan(国際顎頭蓋機能学会日本部会)会長、
岡山大学名誉教授、MICCMO、
山下敦 

1.下顎運動理論の変遷と咬合器
 咬合は歯科のどの分野にも深く関わることから何時の時代にも古くて新しい問題として採りあげられてきた。殊に最近では、医療のエンドポイントである「生活の質の向上」に咬合が大きく関わっていることが認識されるようになった。
 この意味から咬合の適否を診断し、適正な咬合を再構築する歯科医師は、咬合について正しく理解する必要がある。その為には、まず咬合の源である下顎運動の理論がどのように変遷したかを知る必要がある。
 遡って1700年代の初頭は、屍体や生体の顎を動かして下顎頭の回転や移動、ベネット運動等が起こることを見出した。1800年代に入っても下顎運動の解析は静的にしか把握されず、それらの知見をもとに咬合は運動図学的、幾何学的に解析がおこなわれた。その結果、崩壊した歯冠や歯の欠損を修復・補綴する場合、クラウンや総義歯が生体の顎運動と調和するためには、生体に類似した顎関節運動機構をもつ機械的装置で、顎関節に対して上下顎模型を生体と同じ位置関係に固定し、下顎運動を再現させることのできる器械即ち、咬合器が必要であるという考えが生まれた。
 このように当時の咬合論は、咬合器上に下顎運動を模倣再現し、咬合器上で咬合を再構築すれば生体の咀嚼機能と一致した咬合が得られるとする仮説の域を出なかったのである。
 そして咬合器は、生体の顎関節構造を解剖学的に真似たものや下顎運動を幾何学的に再現しようとする種類など多くを数えた。一般的な咬合器として、関節構造を角度で表し平均値化した「平均値咬合器」から「半調節咬合器」、さらには「全調節性咬合器」へと限りなくエスカレートすることになる。
 また、上下顎模型を生体と同じ位置関係に固定する時の下顎位は、下顎頭が関節窩内で最上方、最後方に位置した顎位即ち、中心位(centric relation)とするナソロジー派などが生まれた。
 このように当時の咬合論は、咬合器上で咬合を再構築すれば生体の咀嚼機能と一致した咬合が得られるとする仮説に基づいてハードウェアーの部分がエスカレートし、最も重要な下顎動態の研究や咬合器が生体現象をどれ程再現しているのか、咬合器を使うことによってどれ程医療効果があがるのかなどのソフト面は一切検討されずに時が流れた。

2.生理的咬合の夜明け
 一方、1950年代には一般生理学の発達とともに口腔生理学が進展する。なかでも顎運動のメカニズムの解析は急速に発展し、口腔の末梢感覚受容器の存在、感覚受容器と中枢神経系の役割、刺激(情報)の伝わり方、効果器(咀嚼筋)の受動的、能動的動態など顎運動のメカニズムの解析につながる神経筋機構に関する知見がつぎつぎと生まれ、1972年には、口腔生理学者、河村洋二郎がそれらの知見を集大成して「咬合」は、3つの主たる要素即ち、咀嚼筋、歯(歯列)、顎関節が脳・中枢の神経的に統御される機能的咬合系のなかで安定し維持されており、いずれかの要素に異常が生じると他の要素に波及して、その悪循環はやがて咬合の崩壊に繋がるとした。
 このように口腔生理学における咬合は、咬合を生体現象の1つとして捉え、咬合の適否の診断には機能的咬合系に照らして解剖学的、生理学的、機能的に評価する必要のあることが理解できた。

3.生理的咬合の実践
 このように1970年頃になると、従来の機械論的咬合論では理想的咬合の構築が出来ないことがはっきりしてきた。即ち、咬合器では精密な下顎運動を再現できないこと、チェックバイトでは運動要素の再現性が不良なこと、運動路の再現経路が直線的であるなどは当然のことであるが、もっとも致命的なことは、咬合を狭義に捉え、咬合面の形態や咬合接触にのみに注意が注がれ、個々の咬合を構成する機能的咬合系のどの要素が正常で、どの要素がどれ程異常なのか、またそれらが互いにどう関連しあっているかなどは一切分からないのである。しかし反面、生理的咬合が理解できても具体的にどうすべきかについては殆ど不明であった。

4.下顎運動計測機器の出現
 1972年、河村洋二郎によって機能的咬合系が集大成されたころ、アメリカのBernard Jankelsonは適正な咬合を再構築するためには、下顎運動の源である「咀嚼筋群が正常」であることが最も重要で、咬合の異常によって引き起こされる咀嚼筋群の歪みを取り除くための「マイオモニター(1970)」とチェアーサイドで下顎運動を含む咬合の動態を客観的に評価できる「下顎運動計測装置 Mandibular Kinesiograph (MKG,1975)」を開発した。下顎運動計測装置 Mandibular Kinesiograph (MKG,1975)は下顎の動態が簡単に評価でき、一挙に生理的咬合の実践が可能になったのである。即ち、機能的咬合系がどの程度障害されているかが客観的に評価でき、それを是正するためには何処をどう改善するかが明確になったばかりか、加療による改善度も客観的に評価できるようになったのである。
 この時点でBernard Jankelsonは、咬合を支配するものは咀嚼筋であるため、咀嚼筋をマイオモニターで是正し、得られる下顎位(マイオセントリック)で咬合再構築すれば、他の要素である顎関節は下顎位(マイオセントリック)に追随するとした。
 数年後、Bernard Jankelson の理念を実践した山下(1978)は、咀嚼筋の動態が計測できる筋電計と顎関節音計ならびに顎関節の規格写真の導入によって診断精度がさらに向上することを提案し、筋電計と顎関節音計がMKGに組み込まれた。
 これらME機器の開発によって、神経筋咬合を基盤にした咬合解析は咬合を構成する機能的咬合系の動態を客観的に評価して、非常に予知性の高い咬合を再構築することができるようになったのである。
 「医療の質」が問われる昨今、咬合治療の成果を振り返ってみると、咬合器に明け暮れていた頃は、害こそ与えなかったものの患者は何の利益も得ることなく、歯科医の自己満足にのみ終わったと言うことができる。
 下顎運動やその原動力である咀嚼筋群の動態を計測することによって、勘や臨床経験で生まれた「意見」は「事実」に変わり、限りない幸せを患者とともに歯科医も享受することができるのである。
 国際顎頭蓋機能学会日本部会では、上記の内容を詳細に研修できる。また、咬合の改善(顎関節症の治療を含む)だけでなく、素晴らしい局部床義歯、総義歯などの作製法が学べる。
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